○○邸基礎ひび割れ調査報告書 2002年1月11日 調 査 石山テクノ建設株式会社 |
2002年1月11日 §1調査概要 1. 調査目的 ………………… 本調査は、○○邸の基礎部に発生した、 ひび割れの原因を推定し、補修・補強の要否 を判定する資料を得ることを目的とした。 2. 施主名 …………………… ○○邸 3. 調査場所 ………………… ◎◎県△△市 4. 構造物概要 ……………… RC造布基礎(設計基準強度18N/o2) コンクリート打設日(1997年10月10日) 5. 調 査 …………………… 石山テクノ建設株式会社 6 調査内容 ………………… RC造布基礎の現況調査 7. 調査数量及び調査方法 … (下記参照) §2調査・測定方法 (概 要) 1.書類調査 …………………………… 設計図書による部材の形状・寸法、使用 履歴、被災経験の有無等。 2.外観目視調査 ……………………… 建物全体構造の把握、不具合箇所の把握。 3.基礎の形状・寸法…………………… 土を掘削して、実測した。 4.基礎コンクリート強度測定………… シュミットハンマーによりコンクリート 強度の測定を行った。 5.基礎コンクリートひび割れ調査 … ひび割れの幅、長さを測定した。 6.コンクリートの中性化深さ調査…… ひび割れの大きな箇所を電動ピックを 用い、鉄筋位置までかぶりコンクリートを 斫り取り、1%フェノールフタレイン溶液に より中性化深さを調査した。 7.鉄筋腐食度調査…………………… ひび割れの大きな箇所を電動ピックを用い 鉄筋位置までかぶりコンクリートを斫り取り 鉄筋の腐食状況を調査した。 |
§3調査経過及び調査結果 1書類調査について 下記の書類の提供を受け調査を行った。 @平面図、基礎伏図、立面図(1997年9月10日付) A「基礎クラック調査、建物水平レベル調査」書(1999年12月26日付) B○○様質問書(2000年1月6日付) C△△会社回答書(2000年1月8日付) コンクリートの打設日は△△会社より聞き取りで確認した。被災経験を示す書 類や証言は無かった。 2外観目視調査について 建物全体構造の把握と、不具合箇所の把握を目視にて行った。 3基礎の形状・寸法調査について ひび割れがGLに達している箇所で、土を掘削して基礎を露出し、フーチングより上 の形状・寸法を、構造図と照し合わせながらスケールを用いて計測した。通気口の 位置図面と若干相違(15p程度)している箇所もあったがほぼ設計図通りであっ た。 4基礎コンクリート強度測定について 基礎コンクリートの強度測定は非破壊測定で、シュミットハンマーを用いて、東西南 北各3箇所、合計12箇所を測定した。表面の仕上げ材をハンドカッター・電動ピック ・ディスクサンダーを用いてコンクリートの地肌を露出させ平滑にし、ブロアーで塵 埃を清掃した。 測定個数は互いに3p以上の間隔を持った25点について行い、大きな値と小さな値を 5点削除し、残りの20点で計算を行った。 その各々の測定強度結果の詳細は、別紙「シュミットハンマーによるコンクリート圧 縮強度の推定」(p7〜p18)に示す。 推定強度は22.13N/o2〜23.81N/o2であった。設計基準強度は18N/o2であり、 当基礎のコンクリート強度はこの基準を十分満足していると考えられる。 5基礎コンクリートのひび割れ調査について 基礎コンクリートのひび割れ調査は、クラックスケールとスケールを用いて、ひび割 れの幅・長さ・パターンを実測した。その調査結果は別紙「○○邸ひび割れ調査図」 に示す。 ひび割れ箇所数は外周基礎外側で・・箇所、床下側で・・箇所であった。ひび割れ幅 の最大は0.55o、最小は0.04oで最多は0.2〜0.25oの範囲であった。ひび割れ長さ の最長は470oであったがフーチングには達していなかった。(施主様ご確認済み) 6コンクリートの中性化深さ調査について ひび割れの大きな箇所を1箇所選定(鉄筋腐食度調査と同一箇所)し、電動ピックを 用い、鉄筋位置までかぶりコンクリートを斫り取り1%フェノールフタレイン溶液に より中性化深さを調査した。 調査結果は表面の仕上げ材のみ中性化しており、コンクリート躯体は全て健全であっ た。(写真参照) |
7鉄筋腐食度調査について ひび割れの大きな箇所を1箇所選定し、電動ピックを用い、鉄筋位置までかぶりコン クリートを斫り取り鉄筋の腐食状況を調査した。 調査結果は、鉄筋は全く錆ておらず健全であった。(写真参照) §4考察 調査結果から下記の考察を得た。 @ひび割れは構造上の欠陥によるものではない。 Aひび割れの発生原因は、乾燥収縮によるものと思われる。 B将来にわたり耐久性を考慮した場合、ひび割れ補修を行うことが望ましい。 〔考察理由〕 コンクリートのひび割れには8つの要因があると言われている。それは未固化コン クリートが沈降する際に沈降を阻害するものがあればその位置にひび割れが生じる 「コンクリートの沈降」、打設されたコンクリートが硬化しない間に型枠が変形し て生じる「型枠の変形」、セメントに水を加えると化学反応をおこし硬化するさいに 発生する「水和熱」、不同沈下や外力によって生じる「構造」、交通等による「振 動」、コンクリートの配合―打設―養生の経緯に起因する初期の水和反応不足 から起こり圧縮強度も出ない「初期亀裂」、コンクリートが水和物(水+セメント+ 骨材)であることから、時間と伴にコンクリートは収縮する「乾燥収縮」、鉄筋の発 錆により体積が膨張しコンクリートかぶりを押し出してひび割れが生じる「鉄筋の 発錆」である。 以上の8要因についてそれぞれ照合した結果、当物件のひび割れ原因は「乾燥収 縮」、に因るものと思われる。 乾燥収縮は、コンクリートのボリュームに比例するため、ボリュームの多い箇所、 少ない箇所で乾燥収縮量は異なる。この時コンクリートのボリュームの少ない箇所 に、集中してひび割れが発生する。「乾燥収縮ひび割れ」の発生しやすい条件として 下記の事があげられる。 @水分の多いコンクリート Aコンクリート面によく陽があたる。 Bコンクリート面によく風があたる。 C切目なく直線部分の長いコンクリート構造物。 D断面欠損や断面変化の多いコンクリート構造物。 これらのうち当基礎のひび割れはCとDに該当し、多くは換気口部分に発生して いる。 中間箇所のひび割れは、垂直の鉄筋やアンカーボルト位置にあり、他の箇所よりそ の鉄筋などの分コンクリートのボリュームが少なくなっている。 以上のことから、前記の考察を得た。 |
§5補修方法の提案 1.補修方法 @補修が必要とされるひび割れは、0.2o以上のものであるが、本現場では注入工法 が可能な0.1o以上のものを対象とし、自動式低圧樹脂注入工法(ショーボンドビ ックス工法)により補修する。 A補修済箇所の点検を行い、不具合個所だけではなく、全個所を対象に再補修を実施 する。再補修は自動式低圧樹脂注入工法(ショーボンドビックス工法)とし、ひび割 れ内部にエポキシ樹脂を充填する。 B補修を必要としない0.1o未満のひび割れは、注入材の摺込み工法とする。 Cコンクリート保護工法(ショーボンドネオライナー#100ライニングシステム [190])により、外周基礎立ち上がり外面をライニングし、補修跡の美装と耐久性の 向上を行う。 2. 補修方法の選定理由 ○○邸のひび割れ原因は、乾燥収縮によるものと考えられるが、エポキシ樹脂の注入 工法による鉄筋の腐食に対する防錆効果や、コンクリート構造物の強度に関する補修効 果を理解して頂くため、「コンクリート構造物のひび割れ補修」に関して述べる。 コンクリート構造物のひび割れ補修工法について 1.「ひび割れ補修」とは何か コンクリートに発生している「有害幅」とされている0.2o以上のひびわれは、一般 に構造耐力、耐久性、水密性、気密性などが低下したり、外観が損なわれたりするなど 種々の有害現象が引き起こされる。この様な、ひびわれ発生によって予測される機能の 低下を防いでコンクリート構造物を「ひびわれ発生しなかった場合とほぼ同じ状態」に することが「ひびわれ補修」である。 補修を必要とするひびわれ幅は、耐久性、防水性から見た場合0.2o以上であり、鉄 筋の防錆を考慮した場合0.1o程度のものでも必要とする。水密性は0.03oといわれて いる。 この理由として日本コンクリート工学協会の「コンクリートひびわれ調査補修指針」 に「鉄筋コンクリート部材では一般に設計荷重作用時に幅0.1〜0.2o程度の曲げひび われが発生する。(中略)部材の耐力ないし耐久性の観点から、鉄筋の腐食は鉄筋断 面の減少による抵抗モーメントの低下、腐食面積の拡大によるコンクリートと鉄筋の 付着破壊、錆の膨張圧によるかぶりコンクリートの剥離、剥落などの障害を与える。 0.2o程度以下では影響は小さい。 ひびわれ箇所では鉄筋とコンクリートに剥離が生じており、腐食はこの部分を通して ひびわれ箇所左右端に拡大し、錆の膨張圧により剥離が拡大し腐食がさらに進行する。 表面のひびわれ幅が0.2o程度であっても、ひびわれ箇所の鉄筋の腐食長さは5〜10p に及ぶこともある。」(「同指針」P、51〜61)と言われている。 ひびわれは、コンクリート表面においても、コンクリート内部においても非常に複 雑な形状を示す。また、鉄筋表面までひびわれが到達している場合には、ひびわれ幅 の数百倍にも及び剥離を鉄筋表面に生じる。 |
ひびわれのある場合には、腐食に有害な物質、例えば、炭酸ガス、酸素なども鉄筋に容 易に到達する。 これらのことから、「有害幅」 とされる0.2o程度以上のひびわれについてはエポキ シ樹脂を注入し錆の発生、 進行の防止措置を講じる必要がある。注入材を充填すること により、鉄筋とコンクリートの剥離部分の付着力を回復し、強度の回復、腐食に有害な 物質の侵入を防止することが出来る。 2.補修工法について ひび割れの補修工法としては前記の注入工法を含め、下記のものがある。腐食環境 やひび割れ幅に応じて、選定される。 @パテ・シール工法(表面処理工法) ・ひび割れ幅が狭く、(0.2o未満)、挙動が少ないと予想される場合に施工する。 ・処理要領が簡便で有り、安価である。 ・コンクリート躯体自体の耐力向上にはならない。 AUカット+シーリング工法(充填工法) ・表面処理工法では磨耗・耐食性などの面で不十分と考えられる場合に用いる。 ・防水性は良好である。 ・コンクリート躯体自体の耐力向上にはならない。 B自動式低圧樹脂注入工法(注入工法) ・ひび割れの内部に注入されるので、コンクリート躯体の耐力向上が図れる。 ・@、Aに比較して高価である。 3.注入材料について 注入材料は性能・機械強度等に安定したエポキシ樹脂を用いる。ひびわれが大きく注 入後流下する恐れの有るところには粘性の高いものを用い、それ以外のところには低 粘度のものを用いる。 参考文献: 「コンクリート構造物の耐久性シリーズ塩害T」技報堂出版
「コンクリートひびわれ調査補修指針」日本コンクリート工学協会 文責 石 山 孝 史 (一級土木施工管理技士) |