木造住宅の耐震性能の向上に、制振ダンパーの使用が近年増加してきました。
制振ダンパーの地震に対する効果も具体的に広く知られてきています。
制振(制震)とは
地震時に建物を揺らす建物に加わる地震力を、制振機構により減衰させたり増幅を防ぎ、建物の振動を低減させることを意味します。
日本建築学会では正式に「制振」を用いていますが、「耐震」など他の用語との対比のしやすさから民間企業では「制震」が用いられる場合も有ります。
建物は固有周期で揺れる
地震波には様々な周期が混ざり合っています。
様々な周期が混ざり合っているものとしては、あたかも音楽のようであり、低音(低周波数)が大きかったり高音(高周波数)が大きかったりするように、地震波も木造家屋に影響が大きい1~2秒の周期が強い場合や高層建物に影響が大きい長周期地震動が強い場合があります。
揺れはずっと揺れ続くわけではありません。
それは、押すのをやめた場合のブランコの様なものです。
自然と減衰により揺れが収まっていきます。
減衰は、制振構造や免震構造にとって大変重要な要素です。
振動している物体は、新たな力が加わらない限り、振動が徐々に小さくなり、やがて静止します。この現象が「減衰」で、振動を制止しようとする力のことを「減衰力」といいます。減衰力は「減衰定数」に比例して大きくなります。
減衰の種類
減衰が生じる仕組みとしては下記の3種類があります。
【粘性減衰】
外力としてエネルギーが作用した時に、材料自体の分子間の摩擦などによって熱エネルギーとして消費される。(内部減衰ともいう)
すべり台みたいな感じです。もし摩擦でエネルギーを消費されなかったら下に着いたときはものっすごい速さです!!
【履歴減衰】
材料の塑性化により、荷重変形曲線がループを描くことによってエネルギーが吸収され、振動が減衰する。
なにやら呪文のような言葉ですが、要点は塑性化です。
塑性化することは塑性化によりエネルギーを吸収することにほかなりませんが変形がのこります。
建物が地震により傷んで(釘が抜けたりホゾが外れたり筋交いが割れたり)塑性化すると元に戻れなくなります。
不思議な性質の<弾性+塑性>の弾塑性とは
弾塑性では履歴ループによりエネルギー吸収が行われます。
弾性変形と弾塑性変形の模式図
縦軸はエネルギー量(力)、横軸は変形量(伸び)です。
弾性変形は変形とエネルギーが比例していますが。弾塑性では履歴ループを描いてエネルギーが吸収されます。塑性という言葉が入っていますが弾塑性では履歴ループ内では弾性挙動であり元に戻ります。
例えば、直径2cmほどのゴムのボールで、普通の弾性ゴムと高減衰ゴムのボールを同時に落とすと、弾性ゴムのボールは跳ね上がりますが、高減衰ゴムのボールは不思議と全く跳ねません!しかしボールはへしゃげていなく元の丸いボールのままです。実際に所有しているボールで、弾塑性の性質の説明によく使っています。触ってもほとんど違いは判りません。
もし減衰が全く無いと永久に揺れ続けます。しかし実際は永久に揺れ続けることは有りませんが、減衰力が小さいほどいつまでも揺れ続けます。
一方弾塑性は赤い部分でエネルギーを吸収して元に戻ります。
減衰力が高いほど、効率よくエネルギー吸収が行われ揺れを押さえます。
このとき作用する「減衰力」は「減衰定数」に比例して大きくなります。
一般的に建物自体の持つ減衰乗数は数%です。
高減衰ゴムは、ゴム自体に高い減衰性能を有していろもので、15%以上の減衰乗数を持ち、制振や免震に利用されています。
【地下逸散減衰】
建物の振動エネルギーが地下に逃げていくことで,建物の振動が減衰される現象です。
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履歴ループによる減衰性能を建物の揺れの低減に生かす手段として制振ダンパーが有ります。
在来軸組み木造住宅の倒壊を防ぐ上での限界の変位は1/30ほどです。
凝り返しの揺れに耐えるために、建物に加わるエネルギーを吸収し建物の揺れによる変形を1/30以下に低減することが出来る制振ダンパーは地震対策として非常に有用な手段です。
キラーパルスに耐える
木造住宅の固有周期が1秒もないのにも関わらず、周期1~2秒のキラーパルスと共振し被害が増大します。この共振現象は、建物固有の塑性域での固有周期に共振するためと考えられています。
(参考)木造住宅の大敵【キラーパルス】
対策は、まず建物を剛くすることが必要です。
具体的には耐震性は、耐震等級2以上で出来れば耐震等級3
更に、地震の繰り返しの揺れによる塑性化防止対策として、制振ダンパーを利用することが有用です。
制振ダンパー
木造建物の地震の揺れへの減衰性能を高める手段として、制振ダンパーが使用されます。
制振ダンパーの仕様や形態は各社多種多様ですが、公的機関の認定商品で有れば性能が確認されていますので、あとは、各製品の持つ特徴を理解し適切に使用することが大切です。
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