「迫り来る震度7」その9 大地震で建物が壊れる原因と対策(木造編)①

 大地震での木造住宅の地震被害に関して、現在の木造建物の建築様式に至るまでの住まいの歴史から振り返ってみます。

木造住宅の変遷

木を使った住居の歴史

 縄文時代から奈良・平安時代の一般的な庶民の居住施設は「竪穴式住居」でした。
 

 現代の木造軸組工法の主に柱や梁といった軸組(線材)で支える基本構造は、竪穴式住居から受け繋がれてきたものです。

 平安時代では、地方の田舎はまだ「竪穴式住居」でしたが、平安京内の庶民の間では長屋(町家)が建てられ始めます。住居内に土間よりも高い位置に有る“床”が生まれ、半分が土間で残りに床を張った平屋建て板葺き屋根の簡素な掘立小屋でした。

 江戸時代になると、経済の発展に伴い都市部には商人の店舗兼住居の「町家」や集合住宅の「長屋」が数多く立ち並ぶようになり、江戸は1700年代には100万人都市となり、世界一の大都市として発展します。

 農村地帯では、茅葺き屋根と土壁からできた農家が多く建てられました。

 

 江戸時代の住居は、身分制度上の形式で、一般庶民が住む民家(農家・魚家・商家・町屋)と、武家屋敷、侍屋敷や公家屋敷がありました。
 竪穴住居の流れを汲む土間の歴史は江戸時代まで続いていましたが、明治時代になると、瓦屋根、縁側のある和室、ふすまで仕切られた部屋、土間の代わりに板の間の台所と、変わっていきます。

 

「古民家」は、
・伝統的な建築工法である木造軸組工法で建てられている
・茅葺屋根、草葺き屋根、日本瓦葺き屋根、土間、太い柱と梁
・築年数が50年以上経っている
・・・住居を古民家と呼ばれます。


[建築後100年の古民家]

 築年数が50年以上は、1950年(昭和25年)に建築基準法が制定される以前に建てられていた伝統構法(伝統的な木組みの建築構法)で建てられた家になります。

構法は建物の構造の組み合わせ方法や構造の状態、工法は建物の作り方や施工の方法として、木造軸組み工法の区分で、伝統構法と在来工法で表示します。

伝統構法(伝統工法)

日本に古来から伝わる木造軸組み工法で、継手や仕口などの木組みによる変形性能(柔軟性)を活かした構法です。

 伝統構法は「変形性能」によって、地震による揺れのエネルギーを吸収・受け流す構造で、現在の在来軸組み工法とは構造が異なります。
 更に、古民家や古い寺社仏閣などに見られる「石場建て」は、大地震時で柱脚が浮き上がったり、ズレたりすることで建物に伝わる地震エネルギーの入力を減らす「免震構造」として機能します。

伝統構法から在来工法への転換

 現代の日本は多種多様な構造の建物で満ち溢れています。
建物の数は、その時代の人口や経済規模の表れです。

日本の、西暦700年以降の長期的な人口の推移は以下のグラフになります。

 人々の暮らしを守る住まいが欠かせませんが、明治維新以降の急速な人口増加に伴う住宅需要が日本の歴史上如何に大きなものだったかがグラフの急上昇から見て取れます。

 日本は高度経済成長期(1955年~1973年までの19年間)で名実ともに経済大国となり、人口は1億人を超え、住宅着工数もその間に一気に増大しました。 
丁度サザエさんの原作の時代背景の時期です。)


国土交通省の報道発表資料「不動産業ビジョン2030参考資料集」から引用。

 高度経済成長期に急速に増大する住宅需要の対策として、西洋建築の思想を取り入れ、短期間に大量に建築できることを目的に普及した木造軸組み工法を、在来工法と総称しています。

 木造軸組工法には、西洋建築の影響を受ける以前の「伝統構法」と西洋建築の思想を取り入れた「在来工法」が有ります。

在来工法

 在来工法(もしくは在来軸組工法)は、土台・柱・梁・桁・筋交いなどを組み合わせて軸組(骨組み)を作り、建物を「」で支えます。

在来工法の耐震性
 在来工法は、剛性を高める「耐震性能」によって、地震による揺れのエネルギーを受け止めて耐える構造です。

 伝統構法との違いは、木組みの柔軟性で揺れのエネルギーを受け流すのではなく、受け止める仕組みに有ります。
 土台・柱・梁・桁・筋交い等の主要な構造を木材の軸組で構成する構法で、ほぞ・ほぞ穴による接合を基本とし、くぎや金物によって接合部を補強し、硬く強くすることで地震に耐えます

社会インフラ整備の担い手としての建設業が誕生

 建設関連の工事量が急増し、多くの建設会社が誕生しました。

 1948年に建設省が設立され、1949年には建設業法が成立し、「建設業」という言葉が使わ れるようになりました。

 在来工法は、伝統構法で培われた耐震技術を継承したものではなく、明治の文明開化以降の西洋化の流れの中で、構造力学に基づいて建設を担う「建設業」に多くの人材が携わり、数多くの住宅が建設されていきます。

 1950年(昭和25年)に建築基準法が制定され、定められた耐震基準に従って建物が建設されるようになります。

この耐震基準による耐震性が、建物の地震被害の違いに大きく関係します。

 1971年の建築基準法改正で、中地震の基準が盛り込まれ、1981年の建築基準法大改正(新耐震基準)大地震の規定が盛り込まれました。

 在来工法は、柱や梁の結合部にボルトやプレートなどの金物を使って強固に固定し、筋交いや火打梁・火打土台など斜めの材を取り付け三角構造を取り入れ、建物全体を強く硬くすることで、揺れのエネルギーを受け止めて耐える構造です。その為、揺れのエネルギーが建物の強度を上回ると一気に倒壊する可能性があります。

大地震が発生し大きな被害が生じるごとに、その時代の科学技術の進歩により得られた知見を反映させながら、耐震基準が改定されて安全性が向上していきました。

 新設住宅着工戸数と木造率の推移のグラフに、過去の大地震と耐震基準の改正を追記しました。


【出典:農林水産省Webサイト

 2000年規準は、1995年阪神・淡路大震災での被害状況から1981年の新耐震設計基準が見直され、新・新耐震基準と言えるほどに耐震性が向上した基準です。

木造建物の基準法の変遷

1950年(昭和25年)建築基準法制定
床面積に応じて必要な筋違等を入れる「壁量規定」が定められた。

1959年(昭和34年)建築基準法の改正
床面積あたりの必要壁長さや、軸組の種類・倍率が改定された。

1971年(昭和46年)建築基準法施行令改正
基礎はコンクリート造又は鉄筋コンクリート造の布基礎とすること。
風圧力に対し、見附面積に応じた必要壁量の規定が設けられた。
・現行基準よりも壁量が少ない。

1981年(昭和56年)建築基準法施行令大改正 新耐震設計基準
現行法の2000年規準に対して
・柱頭・柱脚の補強金物が規定されていない。
・壁のつりあい良い配置についての規定がない。

2000年(平成12年)建築基準法改正 2000年基準
・地耐力に応じて基礎を特定。地盤調査が事実上義務化。
・構造材とその場所に応じて継手・仕口の仕様を特定。
・耐力壁の配置にバランス計算が必要となる。

2000年(平成12年)以降の耐震基準で基準法の目標にほぼ到達

 国総研ホームページの、「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会 報告書」で、木造の建築時期別の被害状況をまとめているグラフです。


出典:「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会 報告書」【本文】委員会報告書P33(国土技術政策総合研究所)

 新耐震基準でも1981年~1999年の間に建てられた住宅は、耐震診断の上、必要に応じて耐震補強が必要な場合があります。

 2000年の現行基準で建てられたものでは、無被害が61.4%と明らかに耐震性が向上していますが、2000年基準でに建てられたものであっても、建築基準法は 「一度の大地震に対して、おおむね安全」 な基準であることに注意が必要です。

新耐震基準でも震度7で全壊被害の危険性

 地震の震度と建物被害の参考値として、平成22年版内閣府防災白書木造建築物の全壊テーブルか有ります。

 全壊は、継続使用が出来ない損傷状態や倒壊・焼失した建物のことで、住家の被害の程度と住家の被害認定基準等は、内閣府防災情報のページ:災害に係る住家の被害認定をご参照ください。

■災害の被害認定基準
 全壊は、住家がその居住のための基本的機能を喪失し、補修により元通りに再使用することが困難なもので、住家の損壊、焼失若しくは流失した部分の床面積がその住家の延床面積の70%以上に達した程度のもの、または住家の主要な構成要素の経済的被害を住家全体に占める損害割合で表し、その住家の損害割合が50%以上に達した程度のものとする。
(出典:内閣府防災情報のページ 災害に係る住家の被害認定

 「気象庁震度階級の解説」に木造建物の被害状態をイラストで分かり易く分類されていますので、ご参考ください。(出典:気象庁ホームページ 気象庁震度階級の解説

 旧耐震の旧築年・中築年、新耐震の新築年の3区分で、震度ごとの全壊率をグラフ化されたものが下記グラフになります。


(出典:内閣府防災情報のページ 平成22年版 防災白書

旧耐震基準
赤色(旧築年)・・・昭和36年(1961年)以前
緑色(中築年)・・・昭和37年~昭和56年(1981年)以前
旧耐震基準の木造建物では震度7※80%以上が全壊と想定されます。

新耐震基準
青色(新築年)・・・昭和57年(1982年)以降
 1981年に耐震基準が見直されて、1981年以前を旧耐震基準と呼ばれています。
震度7※では新築年でも30%以上が全壊と想定され、耐震診断を行うことを推奨されています。

※計測震度6.7程と見て

 阪神・淡路大震災などの大地震で、この在来工法が多大な被害を出したことで広く知られていますが、耐震基準を満たしていない旧耐震基準の建物や更に古い建物で多く発生しました。

建物の地震被害(総務省消防庁災害情報より引用)

最大震度 全壊 半壊 一部損壊
1995年阪神・淡路大震災 104,906 144,274 390,506
2011年東日本大震災1 122,050 283,988 750,064
平成16年新潟県中越地震 3,175 13,810 105,682
平成28年熊本地震 8,667 34,710 163,500
令和6年能登半島地震 8,459 20,361 94,963

単位:

1 消防庁東日本大震災記録集3.3.1建物被害で、
 全国で全壊した建物は約13万棟となっている。一方、国交省の浸水区域を対象とした調査によれば約12万棟の建物が津波により全壊した。このことから津波による被害が甚大だったことが分かる。
・・・とのことで、全壊の殆どが津波被害でした。

 もし大都市圏の大阪に有る上町断層帯で大地震が発生すると、
内閣府防災白書平成22年版の、上町断層帯の地震(M7.6)により想定される震度分布及び被害想定結果で、倒壊焼失棟数が約97万棟と想定され、大正関東大震災の全潰全焼流出家屋約30万棟を遥かに凌駕し、現代社会の脆弱性が浮き彫りになっています。

 更に、南海トラフで最大級の地震が起きた場合、西日本各地の都市部で多数の全壊焼失建物が発生し、全壊・焼失208万4千棟と、桁違いの凄まじい予測になっています。

 日本各地で地震が活性化し、南海トラフ巨大地震や直下型大地震により、国難とも言えるほどの甚大な被害が想定される中、耐震化の重要性が益々高まっています。

次回は、木造住宅の地震と建物被害についてご案内します。

「迫り来る震度7」その10 大地震で建物が壊れる原因と対策(木造編)②

 

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ご参考ページ

「迫り来る震度7」その1 震度7とは

「迫り来る震度7」その2 活断層

「迫り来る震度7」その3 建築基準法と大地震

「迫り来る震度7」その4 新耐震基準でも倒壊

「迫り来る震度7」その5 南海トラフ地震はいつ発生?

「迫り来る震度7」その6 南海トラフ地震前に関西で直下型大地震の可能性は?

「迫り来る震度7」その7 南海トラフ地震による西日本大震災に備えるための耐震補強の重要性

「迫り来る震度7」その8 大地震で建物が壊れる原因と対策(RC造編)

「迫り来る震度7」その9 大地震で建物が壊れる原因と対策(木造編)①

「迫り来る震度7」その10 大地震で建物が壊れる原因と対策(木造編)②

「迫り来る震度7」その11 大地震で建物が壊れる原因と対策(木造編)③

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