「迫り来る震度7」その14 擁壁が壊れる原因と対策②変状と対策工事

 擁壁は斜面に建つ住宅には必要不可欠なものですが、既存の擁壁が地震や豪雨により傾斜が生じたり倒壊する被害が増加しています。

 今回は、擁壁の変状と対策工事に関してご案内します。

擁壁の地震被害状況

 地震による擁壁被害の4大原因 

擁壁自体が
・高さが2m未満
・既存不適格擁壁
・水抜き穴の不足
と、
・盛土造成
による軟弱地盤の影響が挙げられます。

 過去の大地震での擁壁被害の原因 

1995年兵庫県南部地震 練石積擁壁の被害が多い
・「増積み擁壁」「床版付き張出し擁壁」「二段擁壁」などの既存不適格擁壁が殆ど
2000年鳥取県西部地震 水抜き穴を設置しているものが14%しかなかった
高さが2m未満の擁壁で被害を受けているものが多い
空石積擁壁の被害は50%を占める
2001年芸予地震 水抜き穴を設置しているものが30%しかなく、擁壁背面の地下水位が高く、崩壊に大きな影響を及ぼした
2004年新潟県中越地震 水抜き穴を設置しているものが30%しかなく、擁壁背面の地下水位が高く、崩壊に大きな影響を及ぼした
高さが2m未満の擁壁で被害を受けているものが多い
2011年東日本大震災 ・仙台市の盛土造成地で宅地擁壁の被害が顕著で、宅地地盤の滑動すべりに伴う宅地擁壁の崩壊・崩落や大きなクラック等が発生
2016年熊本地震 ・「空石積擁壁」「増積み擁壁」などの既存不適格擁壁で被害が多い
高さが2m未満の擁壁で被害を受けているものが多い

(出典)建築技術2012.7より引用及び追記

阪神淡路大震災を引き起こした兵庫県南部地震では、

① 昭和37年以降の規制区域指定のものは、十分な強度を有する擁壁断面が確保されている。しかし、指定以前のいわゆる施行前の既存不適格な擁壁は、十分な強度が確保されていない
② 指定以降においても宅地開発許可後も建築物築造に際しての増し積み、2段擁壁、張り出し床版付き擁壁の改変を行い、結果として不適格擁壁になっている。

・・・ことが、宅地擁壁被害の原因と背景になっています。

熊本地震での宅地被害の特徴を以下のグラフで示されています。

(出典)熊本地震による宅地被害と復興「熊本市 都市建設局」

 2m未満の高さの擁壁と既存不適格擁壁が被害を受けやすいと言えますが、擁壁自体に問題が無くとも、擁壁を支える地盤の問題で擁壁に変状が生じる場合が有ります。

 河川・沼・田畑や山地などで盛土造成されている場合、擁壁の変位や背面土の沈下により建物の不具合が見られます。
 住宅の不同沈下の大半は、軟弱地盤の上に建てられた擁壁が沈下することで発生しています。

 
 住宅の不同沈下の原因は、軟弱地盤の上に建てられた擁壁が沈下したことが大半であると言われています。

軟弱地盤の例
・海・河川・沼・田んぼの埋め立て地
・水路や暗渠付近の土地
・盛土で作った土地
・粘土や砂を多く含む地層(レキ層、洪積層、ローム層、シルト層)

防災科学技術研究所 J-SHIS 地震ハザードステーションの、J-shis Mapで、

 画面上部の「微地形区分」を選択すれば、地域の地形区分を確認できます。
右下の詳細ボタンで、微地形区分の凡例が表示されます。

 微地形区分のうち、「谷底低地、後背湿地、旧河道・旧池沼、干拓地、埋立地」は軟弱地盤の可能性があり、地震や豪雨に対して警戒が必要です。

 擁壁に必要な安定性 

都市計画法施行規則で擁壁に関して以下に規定されています。

イ 土圧、水圧及び自重(以下この号において「土圧等」という。)によつて擁壁が破壊されないこと。
ロ 土圧等によつて擁壁が転倒しないこと。
ハ 土圧等によつて擁壁の基礎がすべらないこと。
ニ 土圧等によつて擁壁が沈下しないこと。

擁壁に作用する外力に対して擁壁自体に過大な変位を生じないように、擁壁の断面形状などを安定計算で検討します。

 擁壁の安定計算で想定される変位は、【 滑動:水平変位、転倒:回転変位、地盤の支持力:鉛直変位 】の3成分です。

 この、滑動・転倒・支持力に対して安定が得られたとしても、擁壁を含む地盤全体についての安定が確保されていないと、擁壁に変状が生じる危険性が有ります。

 擁壁の転倒や移動による地盤沈下、軟弱地盤による地盤沈下が生じると、建物が斜めに傾く不同沈下(不等沈下)が発生します。

擁壁の変状と対策

 宅地擁壁被害の原因と背景 

 擁壁が変状する原因としては以下の主因誘因が有ります。

 【盛土の締固め不足、排水施設の不良、支持力不足、擁壁部材の強度不足】などの擁壁や地盤自体の主体的な原因と・・・
 擁壁の変状を誘発する原因として【地震・降雨・積載荷重の影響】が有り、これらの原因が重なり合って擁壁に変状が発生します。


(出典)建築技術2007年4月号P140表5変状と原因推定の例を参考に作成

 主な変状と対策 

 擁壁の変状と対策は、下記様になりますが、実際は現地調査の上、具体的な補修補強方法を検討します。


(出典)建築技術2007年4月号P141表6変状と対策工法の選定例を参考に作成

対策工事例

 薬液注入 

擁壁沈下対策
【原因】換算N値が5以下の軟弱な地層
【対策】充填工法(二重管ロッド工法)

①現況

道路側溝部より沈下し、石の目地が開いています。

②セメントミルク注入状況


道路面より下の軟弱な箇所に注入を行いました。

③注入完了

④目地埋め戻し

 抑止工 

擁壁移動対策
【原因】盛土と水抜き穴不良
【対策】抑止杭打設、水抜き孔の新設

①機材搬入

1本目が1.5m、それ以外は0.5mのケーシングを使用します。

②ケーシング挿入

 先行してガイド穴を掘削した後に、1本目を挿入し2本目以降をつなぎ合わせながら順次挿入します。

ケーシングを1.5m+0.5m×11本=7m挿入しました。

③セメント充填

ケーシング挿入完了後に、ケーシング内にセメントミルクを充填しました。

④抑止杭打設完了

打設完了後、埋め戻して整地します。

 水抜き孔新設 

①水抜き孔新設位置のマーキング

鉄筋探査の上、コア抜き位置をマーキングします。

②コア抜き

ダイアモンドコアボーリング機を使用し、Φ75mmの孔をあけます。

③コア抜き完了

コア抜き完了後、孔内を清掃し防錆剤を塗布します。

 沿え打ち工 

既存間知ブロック擁壁の外部側に、支持杭新設の上、練積み間知ブロック擁壁を新設しました。


①現況


②支持杭設置、鉄筋組立


③コンクリート打設、新設間知ブロック組積完了

 ひび割れ補修 

『エポキシ樹脂低低圧注』

構造クラックではない軽微なひび割れは、エポキシ樹脂低圧注入によりコンクリートの機能を回復しました。

①現況

②エポキシ樹脂注入状況

『鋼製アンカー補強』

補強が必要な構造クラックは、『鋼製アンカー補強』で補強しました。

①現況

②エポキシ樹脂注入状況

高粘度のエポキシ樹脂を、グリスポンプで注入します。

③アンカー筋設置

ひび割れ部のエポキシ注入後、鋼製アンカー筋を設置します。

④アンカー筋設置完了

⑤埋め戻し

 エポキシ樹脂モルタルで埋め戻し、硬化後に表面の凹凸を撤去し、ポリマーセメントモルタルで仕上げました。

 

 その他 

 空石積み擁壁の補修・補強工法「モルダム工法」は、既存の石積み擁壁を取り壊すことなく、石積み石垣の内部に、優れた接着性を有する専用充填剤を注入することで補修・補強ができる工法です。


【現状】


【補強後】

ご参考ページ
石積接着補強工法「モルダム工法」が、石積み擁壁の崩壊を防ぎます

 

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ご参考ページ

「迫り来る震度7」その1 震度7とは

「迫り来る震度7」その2 活断層

「迫り来る震度7」その3 建築基準法と大地震

「迫り来る震度7」その4 新耐震基準でも倒壊

「迫り来る震度7」その5 南海トラフ地震はいつ発生?

「迫り来る震度7」その6 南海トラフ地震前に関西で直下型大地震の可能性は?

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「迫り来る震度7」その8 大地震で建物が壊れる原因と対策(RC造編)

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