(13)シンボルとしての銀杏(イチョウ)



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  1億5千年前の氷河期に滅亡して中国だけに1種が生き延びた。銀杏は遅くとも室町時代に中国から伝わった。東大や北大、神宮外苑、大阪の御堂筋などの街路樹に使われ、 寺にも多い。また多くの自治体の指定木として選ばれている。扇型の葉の形はよく知られていて徽章の文様になったりしている。銀杏の実は食料となる。歴史的に人と関わりの深い樹木である。 火に強い性質があるため、江戸時代には日除け地に多く植えられた。材は黄色みをおびて柔らかく、まな板や碁盤として使われる。私は住宅の階段の踏み板として使ったことがある。イチョウは 巨木が多く、黄葉が印象に残る樹木である。
  中国のユン・チアンのノンフィクション「ワイルドスワン」は文化革命時代の中国を描いて、世界でベストセラーになった本である。この本の中には数十種類の樹木名が出てくる、 樹木がよほど好きな人である。その著者が四川省成都の図書館の柱廊で、「この銀杏の木だけは、本の虫だった私の目を活字から引き離す魅力を持っていた。」と書いている。銀杏の若葉に よほど魅力を感じていたのだろう。
  11月の中旬友人と韓国を旅行した。これまでの韓国旅行はいずれも春だったが、季節が変わると印象が違う。韓国は紅葉狩りの季節で、モミジなどの紅葉が美しかった。 これまでの旅行では意識しなかった巨木の銀杏の黄葉がいたるところで目についた。このスケッチは海南市の伊善道氏の故宅である。風水による敷地の選定は抜群で、南面し村を見渡せる 傾斜地にある。門の前の広場に銀杏は植えられていた。半ば落葉して、地面も一面黄色だった。その地域のどこからも遠望できる大きさである。ここから近くの楽安という民族村にも広場や 公的な場所に必ず銀杏が植えられていた。日本でも寺や学校などに銀杏はよく植えられていて、大きさと黄葉の美しさ故に、ランドマークになっている。本家中国ではどのような場所に 植えられているのだろうか。
小林一彦建築設計事務所 小林一彦