(2) 八ヶ岳の登山道


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 今年の7月、信州八ヶ岳の山麓の原村に新月伐採されたオーストリアの木材を使って建てられた教会を見に行きました。
 冬の新月の日に伐採した.木材は狂いが少なく、虫がつきにくく、耐久性に優れているということを、オーストリア人のエルビン・トーマが「木とつき合う知恵」の中で経験と実験を基に主張されています。
 そのことに触発されたわけです。
 宿泊した宿は八ヶ岳連峰の天狗岳(標高2645m)直下1860mにあります。
 朝食前に天狗岳の西尾根に通じる登山道を少しばかり登ってみました。
 登山道は鬱蒼とした針葉樹林で覆われ、林縁部には石楠花が目立ちました。
 苔むした岩石が道を塞ぐように.点在しているのですが、人が歩けるように岩石を避けながら道がつくられていました。
 岩石の大きさや形は自然のままで変化に富み登山道でありながら、あたかも回遊式庭園の中を歩いているかのような錯覚を覚えました。
 数キロ歩いたところで引き返しましたが、このような風景が天狗岳の頂上まで続いているのかも知れません。
 八ヶ岳の西側の蓼科高原は唐松が多く、ついで赤松が多く見られます。
 ここは標高が高いせいか、唐松や赤松は見られず、それ以外のモミやトウヒなどの針葉樹が多く見られました。
 諏訪市桑原の足長神社の御柱はかって、この西側霧が峰の車山のモミが使われていたそうですが、現在は赤松に代わっているそうです。
 御柱は大木でなければならず、モミの大木は既に失われたことの証です。
 年月を経た大木であれば、耐久性に優れ、狂いが少ないとされています。
 大木が少ないため、新月伐採が注目を浴びているのでしょうか。
 それとも少しの狂いも許さない、現代の風潮をあらわしているのでしょうか。


(株)京都建築事務所 代表取締役専務 小林一彦