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迫りくる震度7 その4
【建築基準法と大地震(木造編)】

1,木造建物の基準法の変遷と耐震性



 1950年(昭和25年)に建築基準法が制定され、建築基準法施行令に構造基準が定められました。
 1971年の建築基準法改正で、中地震の基準が盛り込まれ、1981年の建築基準法大改正(新耐震基準)で大地震の規定が盛り込まれました。

【建築基準法の変遷】

【図1】建築基準法の変遷

1981年の新耐震基準
 1981年6月1日に施行された建築基準法で、建物の大地震に対する規定が新たに設けられました。
震度6強から7程度の大地震でも建物の倒壊・崩壊を防ぐことを目指した基準です。

【図2】旧耐震基準と新耐震基準の違い

木造建物の耐震性は基準法の改正により向上してきた経緯が有ります。

1950年(昭和25年)建築基準法制定
床面積に応じて必要な筋違等を入れる「壁量規定」が定められた。

1959年(昭和34年)建築基準法の改正
床面積あたりの必要壁長さや、軸組の種類・倍率が改定された。

1971年(昭和46年)建築基準法施行令改正
基礎はコンクリート造又は鉄筋コンクリート造の布基礎とすること。
風圧力に対し、見附面積に応じた必要壁量の規定が設けられた。
・現行基準よりも壁量が少ない

1981年(昭和56年)建築基準法施行令大改正 新耐震設計基準
2000年規準に対して
・柱頭・柱脚の補強金物が明確に規定されていない
・壁のつりあい良い配置についての規定がない

2000年(平成12年)建築基準法改正 2000年基準
・地耐力に応じて基礎を特定。地盤調査が事実上義務化
・構造材とその場所に応じて継手・仕口の仕様を特定
・耐力壁の配置にバランス計算が必要となる。

2025年(令和7年)建築基準法改正
耐震性を更に向上するために、木造住宅の設計法がより厳格化されました。
法改正後、現行の4号建築物は無くなり、新たに「新3号建築物」と「新2号建築物」に分かれます。


【図3】出典:国土交通省資料(2023年10月版)より引用

 木造2階建てでは、仕様規定で壁量等が改定され、審査区分で300㎡(=90坪)以下の建物で構造関係の規定等の図書が確認申請時に必要になり、300㎡を超える規模になると構造計算が必要になります。
 「新2号建築物」に該当する建築物の大規模なリフォームについても、確認申請が必要になります。

 現在に至るまでの各基準法により建設された住宅の耐震性に違いが生じ、建築時期の古い建物程に耐震性が低くなります。


【図4】出典:林野庁Webサイト「新設住宅着工数と木造率の推移」のエクセルデーターを基に作成

 新耐震基準でも1981年~1999年の間に建てられた住宅は、耐震診断の上、必要に応じて耐震補強が必要な場合があります。
 2000年基準で建てられたものでは、無被害が61.4%と明らかに耐震性が向上していますが、2000年基準でに建てられたものであっても、建築基準法は 「一度の大地震に対して、おおむね安全」 な基準であることに注意が必要です。

 熊本地震では、熊本県益城郡益城町でわずか約28時間以内に震度7の地震が2度発生し、新耐震基準の導入以降に建てられた住宅の倒壊や大破も目立ちました。



【図5】出典:「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会 報告書

 倒壊・崩壊と大破で着目して見ると、旧耐震基準で45.7% 新耐震基準で18.4% 2000年規準で6.0%と耐震性が旧耐震基準から大幅に向上していることが分かります。

 しかし、最新の2000年規準であっても、住宅性能表示制度の「耐震等級2」の住宅に倒壊が発生しました。

 2025年4月の建築基準法改正では、熊本地震を踏まえ木造住宅の耐震性強化や、小規模建築物の確認申請手続きの見直しなどがおこなわれました。


2,建築時期が古いほど高まる倒壊の危険性



 強くて長持ちするはずの木造建築ですが、 近年の木造建築物では、現在の耐震基準を満たしていない旧耐震基準の在来工法や古い木造建物ほど耐震性が低くなり、地震で大きな被害を受ける傾向にあります。


【図6】出典:気象庁「気象庁震度階級の解説」より被害イメージを抜粋)


2016年(平成28年)熊本地震

 建物被害で、無被害から損傷が拡大し全壊(及び倒壊)に至るまでの被害の違いについては以下の様に区分されています。

【図7】出典:気象庁ホームページ 気象庁震度階級の解説 「被害認定用パターンチャート」より引用(被害イメージは一部抜粋)

 住家の被害の程度は、内閣府の定める「災害の被害認定基準」等に基づいて、市町村で「罹災証明書」が交付されます。


【図8】出典:内閣府「災害に係る住家の被害認定」より引用

 全壊は「損害基準」で、構造の大部分を失い住み続けることが困難で、基本的には解体または建て直しが必要な状態です。

 建物の損傷の程度に対する全壊の範囲は以下の図が参考になります。
 全壊は、損傷度で大破・倒壊の状態が含れます。

【図9】内閣府:「東海地震及び東南海・南海地震に係る被害想定手法について」(参考)建物被害における「全壊」の定義 より引用

 築年別の全壊と震度との関係は以下のグラフでまとめられています。

木造建築物の全壊率テーブル

【図10】出典:内閣府防災情報のページ 平成22年版 防災白書 木造建築物の全壊率テーブル で震度区分を強調表示しています。
全壊率の曲線は、ばらつきのあるデーターの平均的な値になります。

 図10のように震度6弱から全壊率が増加し、震度6強の範囲で急増加しますので、震度6強と一括りには出来ないことが分かります。

赤色(旧築年)・・・昭和36年(1961年)以前
緑色(中築年)・・・昭和37年(1962年)~昭和56年(1981年)以前
--昭和56年(1981年)建築基準法施行令大改正(新耐震基準)--
青色(新築年)・・・昭和57年(1982年)以降

東京都で作成された全壊率曲線は、築年別の違いを更に細かくまとめられています。

【図11】出典:東京都防災ホームページ
南海トラフ巨大地震等による東京の被害想定(平成25年5月14日公表) より引用

 図10,11のグラフから、1980年以前(新耐震基準)と1981年以降(新耐震基準)の間で倒壊率に差が有ることが分かります。
 その差の要因は、大地震が発生し大きな被害が生じるたびに、建物の耐震性能の基準となる「建築基準法」が改定されて安全性が向上してきましたが、新耐震基準で、それまで無かった大地震に対する基準が設けられたことです。

 しかし、1981年以降で2000年基準の建物(図11の新③)であっても、大地震の想定(計測震度6.5程)を越えると倒壊率が上昇しています。


【図12】計測震度と震度階

 阪神・淡路大震災での震度7 は体感によるもので、計測震度の推定は6.5 ほどと見られています。
 熊本地震本震の益城町宮前での震度7は、阪神・淡路大震災を上回る計測震度6.7 でした。

 震度7は上限のない震度であり、全壊率曲線で旧築年・中築年は計測震度7.0(となる地震が発生するのか想像できませんが)でほぼ100%全壊になっています。


【図13】地震動の影響

 住まいの耐震性は、「地盤」「基礎」「上部構造」が、そろって地震に耐える必要が有りますが、築年数が古い建物ほど、「地盤」「基礎」「上部構造」の耐震性が低くなる傾向にあります。

【図14】基準法と耐震性の傾向

 1995年阪神・淡路大震災で多くの建物に倒壊が発生しましたが、地盤の液状化やがけ崩れが住宅倒壊に大きく影響していました。

 内閣府防災情報のページ「阪神・淡路大震災教訓情報資料集【03】建築物の被害」で、
・液状化や崖崩れ等の地盤に起因するものも多く、特に大阪市域における被害はほとんどが液状化によるものであった。
・西宮市の百合野や仁川では斜面崩壊による住宅の被害が見られた。
・・・と記されています。



3,液状化による戸建て住宅の全壊



 大地震による倒壊や火災による甚大な被害に意識が向きがちですが、内陸部で起こる液状化現象により住宅を含むあらゆる社会インフラが被害を受けます。

液状化による代表的な被害と地震後の生活に及ぼす影響例

【図15】国土交通省 液状化現象について より引用

「地形区分に基づく液状化の発生傾向図」と「都道府県液状化危険度分布図」をハザードマップポータルサイト『重ねるハザードマップ』で公開されています。


【図16】京都駅周囲の液状化傾向

 液状化による戸建て住宅被害も日常生活にとても大きな影響が生じますが、液状化で建物が傾くことに関する罹災証明の発行には「地盤の亀裂」や「基礎の全壊」など一定の基準を満たす必要があり、これに該当しないと被害認定が厳しくなります。

 京都府ホームページ「京都府における地震・津波による被害想定」の、令和5年度花折断層帯地震被害想定の報告で以下の被害想定となっていますが、液状化による全壊が1550棟と想定されています。

【図17】出典:京都府「花折断層帯地震被害想定報告書」

 液状化現象は行政による対策も重要ですが、宅地では地盤改良や擁壁等の構造物を強くするなど、個人で行うこともできます。
 まずは、自治体が発表している地震ハザードマップや液状化マップから、ご自身のお住まいの場所や地域が、液状化現象が発生する可能性があるかを調べましょう。

 地元の京都周辺に多くの活断層が有りますが、「花折断層帯」による地震が発生すると、広範囲に震度6強の揺れが発生します。



【図18】出典:京都府第二次地震被害想定調査結果 より引用

 マグニチュード7.5は、兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災委)M7.3の約2倍のエネルギーを持つ地震になります。

 京都府マルチハザード情報提供システムから、詳細な状況が確認できます。

広範囲に震度6強の予測となっています。

【図19】出典:京都府マルチハザード情報提供システム(地図の中央が京都駅です)

更に、液状化も広範囲に「液状化危険度 中(活断層)」となっています。

【図20】出典:京都府マルチハザード情報提供システム(地図の中央が京都駅です)

 又、河川・沼・田畑や山地などで盛土造成されている場合、擁壁の変位や背面土の沈下により建物の不具合が見られ、住宅の不同沈下の原因は、軟弱地盤の上に建てられた擁壁が沈下したことが大半であると言われています。
 軟弱地盤の例
 海・河川・沼・田んぼの埋め立て地 ・水路や暗渠付近の土地 ・盛土で作った土地 ・粘土や砂を多く含む地層(レキ層、洪積層、ローム層、シルト層)

 防災科学技術研究所 J-SHIS 地震ハザードステーションの、J-shis Mapで、

【図21】出典:防災科学技術研究所 J-SHIS 地震ハザードステーション

 画面上部の「微地形区分」を選択すれば、地域の地形区分を確認できます。
 右下の詳細ボタンで、微地形区分の凡例が表示されます。
 微地形区分のうち、「谷底低地、後背湿地、旧河道・旧池沼、干拓地、埋立地」は軟弱地盤の可能性があり、地震や豪雨に対して警戒が必要です。




2025年9月18日改定





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