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はじめに
阪神・淡路大震災から16年を経過した今年、未曾有の東日本大震災にみまわれました。
2011年3月11日14時36分18秒に発生したマグニチュード9.0という規模の海溝型地震は、大津波を伴い、東北地方を中心とした死者・行方不明者計2万人以上にのぼる甚大な被害をもたらしました。また、福島第一原子力発電所事故により放射性物質の漏れが今も続き、日本全国および世界に経済的な二次被害も発生しています。
亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに被災された方々に心からお見舞いを申し上げます。
「天災は忘れた頃にやってくる」という言葉がありますが、関西に住む私たちは1995年1月17日5時46分に発生した阪神・淡路大震災を忘れることはできません。死者6,434人、全・半壊家屋27万4千棟もの大惨事になりました。
当時私は、構造物の補修・補強を得意とする大手建設会社に勤めていました。震災復旧に従事するため現地入りし、想像を絶する家屋の倒壊状況を目の当たりにしました。「人を守るべき建物が倒壊して人を殺し、傷をつけている」その体験から「安全・安心の建物づくり」の大切さを深く学びました。
そこで、私が今まで学んできたことや講演した内容などを分かりやすく皆さまにお伝えしたいと思います。
専門用語も出てきますが出来るだけ分かりやすく解説を行いますので、これを機会にご自身でお調べ頂くのも良いのではと考えています。
地震の度に耐震基準の見直し 日本は世界の地殻エネルギーの10分の1が集まっている「地震大国」です。
国の耐震基準は大きな地震があるたびに改定されて、特に大きな改定は1981年の「新耐震」基準でした。
しかし、「新耐震」以前の建物であっても、耐震上問題のない建物もあり、また以降の建物であっても問題がみられる建物が少なくありません。
そのため、「新耐震」以前であれ以降であれ、耐震診断を行い自分の住まいの状態を知っておくことが大切です。
死者のほとんどは家屋の倒壊が原因
神戸の震災では地震が起こったわずか14分以内に92%の人が亡くなっています。
直接の死因は「窒息」「胸腹部圧迫」によるもので、死者のほとんどは、家屋の倒壊が原因の圧死でした。
耐震設計の考え方 建物の耐震設計では、きわめて強い地震の時にも、1度の揺れで倒壊、崩壊だけはしないようにするというのが最大の目標です。
少々なら壊れることを許容しています。
しかし繰り返しの余震で倒壊することに対しては規定していません。
建物が倒壊しなければ、犠牲者が出ることを避けられ、火災を引き起こさず、道路を塞ぎません。
建物が傾いても応急的に補強すれば住み続けることができ、仮設住宅の必要がありません。
建物が倒壊するかしないかは、地震災害にとって決定的に重要なことなのです。
(建物被害のイメージ)
震度7でも倒壊しない建物
坂本功元東大教授は著書「木造建築を見直す」(岩波新書2000年5月初版)で「阪神・淡路大震災に関しては、倒壊したものが多数あったことよりも、震度7のところでも、少なくとも外観は無被害の木造住宅が少なからずあったことのほうが疑問であり、その理由を考察しています。」と述べられています。
震度0でも揺れる建物
地震で建物が揺れることは、ほとんどの方が体験で知っています。
しかし「なぜ地震で建物が揺れるのでしょうか」と改めて聞かれた場合、「それは地面が揺れるから」との回答がほとんどではないでしょうか。しかしその答えは正確ではありません。
「震度0でも揺れる建物」があるのです。
「毎日JP/2011.3.2」に次の記事がありました。
「地震波には、短い周期の波によるガタガタとした揺れと、ゆっくりと長く揺れる長い周期の波が混ざる。(中略) 全ての物には揺れやすい周期(固有周期)があり、高層ビルや石油タンクなど大きな構造物ほど固有周期が長い。仮に固有周期と一致するような長周期の波だけが届けば、震度ゼロでもこうした構造物は大きな揺れに襲われることになる。」 建物の固有周期とは建物には揺れやすい周期(固有周期)があって、建物の材質や形状によって固有周期が異なります。
固有周期は自由振動させたとき一往復するのに要する時間です。
たとえば、振り子の重りを手に持って左端から離したとき、振り子が左端から右端へ行って、再び左端に戻ってくる時間を固有周期といいます。
1秒間に同じ状態が繰り返される回数が振動数で繰り返しの時間、周期が0・5秒であれば、振動数は2といいます。
建物種別ごとの固有周期は、多数の実測結果からおよその値がわかっています。例えば、古い平屋木造住宅は0.5秒~0.7秒、新しい2階建木造住宅は0.2秒~0.3秒、五重塔1.0秒~1.5秒、10階建鉄筋コンクリート造のビルは0.6秒~0.8秒、40階建超高層ビルは3.5秒~4.5秒となっています。
マグニチュードや震度だけでは、建物の被害は想定できない
マグニチュードや震度だけでは、建物の被害は想定できません。
では、どの様なことが建物の被害に影響しているでしょうか?
木造家屋が比較的短い周期の波で強く揺すられると、柱と梁の接合部がゆるんでしまいます。
それまで比較的「固く」つくられていた家屋が「ゆるむ」ことで固有周期が長くなり、こんどは周期がやや長い(1秒前後の)地震動がこの「ゆるんだ」家屋に追い討ちをかけるように大きな作用をして、家屋を倒壊にいたらせるというのです。
これはおびただしい木造家屋の倒壊を生じた阪神・淡路大震災の“震災の帯”で記録された地震動を、ほかの地震の波形と比較して明らかになったことで、このときの周期1秒前後の強い顕著な振動は、「キラーパルス」と呼ばれました。
地震動の強さはよく加速度(ガル)や速度(カイン)の大きさで表わされたりしますが、建造物を地震に対して安全に設計するには、これらだけでなく地震動のさまざまな性質(たとえば周期や応答速度など)を同時に考慮する必要があります。
地盤と建物の固有周期 地震動は硬質地盤では主に短い周期で震動し、軟質地盤では主に長い周期で震動します。
一方建物についても、前回にも述べましたが固有周期があります。
軟弱地盤は、地震時に主に0.6~2秒前後の周期で揺れます。
一方、木造の建物は頑丈なものでは0.2~0.3秒の周期、それほど頑丈でない木造建物では0.5~0.7秒の周期で揺れます。
地盤と建物の二つの周期が近づくと、それぞれの揺れが共鳴し増幅する「共振」という現象が起きてしまいます。
たとえば、ブランコにのっている子供の背中を押してやるとき、最も簡単に効果的に押すポイントは、ブランコが反復する寸前です。この時点であれば指1本でもブランコを加速できます。
また、振り子を例にとると、手の動きを地震力、振り子を建物とみた場合、共振すると小さな外力でも大きな振動(振り子の動きに合わせると手の動きが少なくても振り子は大きく振動する)となり共振しなければ、大きな外力でも振動は小さく(振り子の動きと合わなければ、手を大きく動かしても振り子の振動は小さい)なります。
こうした力の相互作用が共振のメカニズムなのです。
周期と周期が一致したとき、お互いの力が助け合って増幅するので、建物が強固に造られていてもそれをはるかに上回る力が加えられるのです。一度「共振」すると、建物の揺れは急に大きな幅をもって激しく揺れ、地震力は、共振前の2倍以上の大きな破壊力になることもあり、そうなると建物は倒壊します。
木造家屋が損傷を受け始めると固有周期は1秒前後に延び、周期1秒前後の地震波で壊滅的被害を受けることになります。阪神・淡路大震災でも、周期1秒前後の地震波(キラーパルス)が被害を拡大したといわれています。
同じ地域にあっても「ある家は完全に倒壊しているが隣りの家はほとんど被害がない」という事例があったのですが、それを左右したのは「共振現象」が起きた家か、起きなかった家かの違いであると考えられています。
最善の地震対策は 怖いのは「やや短周期地震動(1~2秒)」です。
どんなに震度が大きくても(震度7でも)人が強い揺れだと感じても、建物が倒壊しなければ人が死ぬことはありません。(もちろん室内の家具や物を固定し転倒などによる事故を防止することは大切です)
この「キラーパルス」を避ける手段として、現代建築は固有周期の短い、剛性の高い造り方に傾倒しています。
しかし現在の建築基準法は、「建築の構造に関して最低の基準を定めている(同法第1条)」だけで、建築基準法が「震度6強から震度7程度の地震があっても建物は倒れない」という最低限の基準を設けているにすぎません。
耐震性のお墨付きを与えているのではないのです。
この欠点を補うために、2000年に「住宅品質確保の促進等に関する法律(住宅品確法)」が施行され、耐震等級1(建築基準法レベルの地震力)、耐震等級2(建築基準法の1.25倍の地震力)、耐震等級3(建築基準法の1.5倍の地震力)――という三つの等級が定められました。
これらを踏まえ、新築・改修を問わず地震対策として次のことが必要となります。
①建築基準法以上の強度を確保する。(耐震等級2以上)
目的)建物の損傷を少なくする。
②繰り返しの揺れに耐えて、出来る限り建物の損傷を少なくする。(制振ダンパーの設置)
目的)建物の固有周期の延びを抑えキラーパルスと共振することを防ぐ。
③地盤を固くして、地震動の増幅を抑える。(地盤改良)
目的)軟弱地盤での振動の増幅を抑える。
石山テクノ建設株式会社 代表取締役 石山孝史
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