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ほんばこ 第五回 「江戸文化再考―これからの近代を創るために」



中野三敏 著
笠間書院 刊

 
 先日、BSで「昭和偉人伝 カミソリ後藤田正晴の政治人生」という番組を観ていたら後藤田元官房長官が晩年に次のような発言をされていた。
 曰く「明治時代を創ったのは、明治人と言われているが、本当に明治時代を創った人々は、すべて江戸時代に育った人々によってなされたものだ。・・・また、敗戦後の日本復興を成し遂げたのは、大正時代の人達だ・・・」と。
 この発言を聞きながら、最近読んだ中野三敏著「江戸文化再考」の内容とオーバーラツプしてしまった。
  著者によれば、明治維新以降、江戸時代に対する見方は時代によって様々に大きく5回ほど変化したとしている。

 明治時代の変革期の言わば当事者たちは前の時代を否定するのが当然だ。
 だが、時代が変わるにつれ、懐古的にもなり、最近では江戸ブームとさえ言われるようにさえなったのである。

  一方、江戸時代が終わってわずか150年の日本の近代化は何かと行き詰るようになり、文化面・環境面で諸問題が顕在化している。
 それらを展望し、切り抜けるためには近代主義のみで江戸を裁断するのではなく、江戸に即して江戸時代を理解することこそ大切であると著者は説く。
 特に戦後の日本は、江戸の中を近代主義的に評価できる部分だけをピンセットで摘み上げて、それだけを評価してきた。
 そうではなく清濁合わせて丸ごとの江戸時代を理解することで、”目から鱗”の時代認識ができるとしている。
  特に、江戸時代は戦争のない約260年の間に青年期・成熟期・老年期で完結する文化の盛衰を現出し、限定的ではあるがそれに対応した技術も変遷している。

 著者は、近世文学の研究者であるが、江戸時代を封建的で閉鎖的な時代だとステレオタイプに認識する愚かさを丁寧に解きほぐしてくれる。
 この江戸時代に多くの日本の古典が改めて認識・評価され、多くの草紙本が変体仮名と草書体の文字で出版され文化の最盛期を現出している。
 その内には、医術書、本草学の書籍、規矩術の技術書等も含まれている。
  しかし、今日では、そのほんの一部(著者の推定では1%強)しか活版本となって出版されていないため現代人が手軽に読むことができなくなっている。
 例え、出版されても解説なしにはその内容が理解できないほど大きな断絶も生じている。
 海外の識者からは、日本は長い歴史を積み上げてきた財産があったからこそ近代化に成功したと言われることもあるが、近世の重要な部分である江戸時代の文化・社会の正にコアな部分が正確に現代へ引き継がれていないし、次世代へ引き継ぐ準備も不足し、能力も限定されたものであると言える。
 その意味では、単純に江戸は良かったとか、江戸は全て旧弊だというのではなく、今日と明日の日本を考える重要な素材になりうる文化財として暖かな視点と積極的な財政支援が必要だと認識させられた。

  時間的・空間的に狭くなったこの地球号の文化・環境・技術等の諸問題を解決する思考の方向性として「江戸の知恵」に謙虚に耳を傾ける姿勢を養うためには、良書としてお勧めしたい一書である。




石山テクノ建設株式会社 顧問 坂本良高


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