「迫り来る震度7」その3 建築基準法と大地震

建築基準法の目的は、「国民の生命、健康及び財産の保護】ですが、大地震ごとに震災被害を教訓に耐震基準の改正が行われ、昭和56年の改正を境に旧耐震基準から現在の新耐震基準となりました。

【最低限の基準としての建築基準法】

第一条  この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。

建築基準法は、「国民の生命、健康、財産」の保護を目的とし、これ以上の性能とすべき「最低限の基準」を定めたものです。

【耐震設計法の変遷】

1950年(昭和25年)建築基準法制定
1971年(昭和46年)基準法改正
1980年(昭和55年)基準法改正
1981年(昭和56年)改正基準法施行「新耐震基準」

新耐震設計法の大きな特徴は,旧耐震基準になかった大地震に対する規定が設けられた点です。

中地震では弾性限度内で、大地震では変形や損傷が生じても倒壊には至らないとする設計法です。
基準法では、中地震と大地震の規模が明記されていませんが、中地震は震度5弱(最大地表面加速度80~100gal)、大地震は6弱(最大地表面加速度300~400gal)程度の地震を想定していると言われています。

【地震の大きさを表す単位】

『震度』

気象庁震度階級ともいって、日本独自の指標です。   現在は。0から1、2、3、4、5弱、5強、6弱、6強、7の 10段階で表されます。

計測震度は、震度計内部でデジタル処理によって計算されています。
地震情報などにより発表される震度階級は、観測点における揺れの強さの程度を数値化した計測震度から換算されるもので、震度6強は計測震度6.0以上~6.5未満、震度7は計測震度6.5以上になります。

木造建築物の全壊率テーブル


H22年版防災白書より引用

震度6強~震度7での最大差は計測震度6.07.0、最小差は6.4と6.5の差になります。
旧耐震基準の木造建築物では、計測震度6.0で全壊率20%程が、計測震度7.0で全壊率が100%近くなっています。

『マグニチュード(M) 』
地震が発するエネルギーの大きさを表した指標です。

マグニチュドの数字の1の違いは32倍ほどの違いになります。

「出典:地震調査研究推進本部」防災・減災のための素材集より引用

海溝型地震で東北地方太平洋沖地震の地震規模が内陸型に比べ非常に大きく、広範囲に影響を及ぼしました。又浅い震源での内陸型地震では兵庫県南部地震の様にM7以上の直下型地震で、集中した震災被害が発生しました。

『ガル(gal) 』
ガルは地震動の大きさを「加速度」で表したものです。
1galは、1センチメートル毎秒毎秒(cm/s^2)に相当します
(ちなみに地球の引力は980gal(1G)です。)

『カイン(kine) 』
1カインは「速度」の単位で、1秒間に1cm動いたことを表します。
超高層建物を設計する場合では中地震25カイン、大地震50カインの2段階で構造を検討します。

の4つの単位がよく用いられます。

建物被害はgalよりもkineの方が相関関係が見られます。ただ実際の建物被害に関しては、複雑な要因が絡みあって、同じ地震動でも同じ被害が出るとは限りません。要因には建物の固有周期や地盤の影響や建物自体の耐震性能等が有ります。

【気象庁震度階級での震度7】

1996年10月1日の震度階級改定で、震度5と6にそれぞれ「弱」と「強」が設けられ、10段階になりました。

1978年に制定されていた計測震度の算出式も変更され、震度7の基準は以前の3倍ほど厳しくなりました(400gal以上から1,500gal以上に変わっています)

つまり、1981年の新耐震基準での300~400gal程の大地震は、現行の「気象庁震度階級」での地震規模で震度6弱相当と見られます。

しかし、建物被害は、一概に加速度(gal)だけで論じられることではありません。

建物被害は、加速度(gal)よりも速度(kine)に相関性が見られ、更に木造家屋では周期 1-2 秒の「キラーパルス」により倒壊などの甚大な被害が発生します。

加速度(gal)で世界最大の値は、2008年岩手・宮城内陸地震の岩手県一関市厳美町祭畤で観測された4022galです。
岩手県内陸南部で発生したマグニチュード7.2 の大地震で、岩手県奥州市と宮城県栗原市において最大震度6強が観測されました。
ギネス世界記録に認定されたとんでもない値で史上最大の山体崩壊が発生しましたが、建物の倒壊などの被害は少なく、周期 1-2 秒の震動成分の「キラーパルス」が小さかった事が、震度の割に建物被害の少かった原因と考えられています。

今後発生が予測される地震と被害予想】

H22年度内閣府防災白書の「西日本の内陸における地震活動」の図です。

・・・過去の事例によると,西日本では,東南海,南海地震の前後に地震活動が活発化する傾向が見られる。と記されている中、2016年に熊本地震Mj7.3・鳥取県中部地震M6.6が発生し,2018年には、大阪北部地震Mj6.1と大きな地震が発生しています。
さらに、北海道沖の千島海溝沿いで、今後30年以内にマグニチュード8.8以上の東日本大震災に匹敵する規模の地震が切迫している可能性が高いなかで、北海道胆振東部地震Mj6.7が発生しました。

【近年の震度6強・7の地震でのgal.kine】

1995年兵庫県南部地震(旧震度階級で震度7が記録された地震)

⓵神戸海洋気象台 震度7 最大加速度891gal:最大速度112.1kine
⓶葺合(大阪ガス)震度7 最大加速度835.8gal:最大速度134.6kine
③JR鷹取     震度7 最大加速度759gal:最大速度169.1kine

2004年新潟県中越地震

④気象庁川口 震度7  計測震度6.5 最大加速度1722gal:最大速度148.3kine
⑤気象庁川口 震度6強 計測震度6.5 最大加速度2516gal:最大速度68.0kine

2000年鳥取県西部地震

⑥KiK-net日野 震度7相当  最大加速度1142gal:最大速度147.2kine

2016年熊本地震

⑦KiK-net 益城観測点:前震 最大加速度1580gal:最大速度92kine
⑧KiK-net 益城観測点:本震 最大加速度1362gal:最大速度130kine

【木造住宅被害の目安】


建築技術2007年8月号P96の「被害の大きい地震の範囲」の図を基に作成

数値だけでは分かり難いですが、グラフにプロットすると熊本地震本震が兵庫県南部地震①②③よりも大きな被害が発生する傾向にあったことがわかります。

木造住宅の被害では、800gal・100kine 以上で周期1~2秒のキラーパルス成分の多い地震動で大きな被害が生じる可能性が高くなります。

更に、立地での軟弱地盤による地震動の増幅により甚大な被害が発生しました。

 【繰り返しの大地震による被害拡大】

阪神・淡路大震災で多数の建物被害が発生しましたが、更に2016年熊本地震で住家被害 全壊8,698棟半壊34,530棟一部破損156,298棟もの大きな被害となりました。(熊本県熊本地方を震源とする地震(第102報平成29年5月15日)

家屋被害は建築基準法が改正された1981年以前に建築された古い木造家屋に集中し,震度7を2回観測した益城町では、耐震基準が強化された2000年以降に建てられたと見られる住宅の全壊も生じました。現行基準(2000年基準)で建てられた木造242棟のうち、倒壊したものが7棟(2.9%)、大破したものは10棟(4.1%)です。(参考ページ:迫り来る震度7」その4 新耐震基準でも倒壊)

耐震基準は、震度6強から7の大地震でも倒壊しないとされていますが、現在の震度階級での震度7に2度・震度6強に2度襲われることは全く想定されていません

 【木造住宅の被害の原因】

基準法から見て
・1981年(昭和56年)の新耐震基準以前の旧耐震基準より建設された建物「既存不適格建物」
・1981年(昭和56年)の新耐震基準以降で、2000年に改定された現行基準法以前に建設された建物
・基準法の規定に実情が見合っていない要因
柱頭・柱脚の補強金物が規定されていない。
壁のつりあい良い配置についての規定がない。
ことが、大地震時での倒壊要因と考えられます。

その他の要因
・施工不良により耐震性能を満たしていない欠陥住宅
・劣化、腐朽、蟻害等により耐震性能が低下した住宅
・傾斜地の地盤の変状の影響を受けたもの
・軟弱地盤による揺れの増幅
・隣家の衝突を受けたもの。

等が考えられます。

建築基準法は、「国民の生命、健康、財産」の保護を目的とし、これ以上の性能とすべき「最低限の基準」を定めたもので、繰り返しの大地震による地震被害は想定されていないことと、木造住宅ではより細かく建物ごとに耐震性能に差が有ることに対しての注意が必要です。

以上の様に「最低限の基準」の建築基準法を満たしていることは必要な条件ですが、安全安心に対しては十分では決して有りません。又、建物は経年劣化で耐震性能や居住性能が低下していきますので、維持保全のための補修・改修も大切です。

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石山テクノ建設株式会社は、皆様のくらしの安全と安心を、補修・補強・耐震補強技術でサポートします。

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