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迫りくる震度7 その4
【建築基準法と大地震(木造編)】



1,大地震で、築年数が古いほど高まる大破・倒壊の危険性



 日本には、1300年以上前の奈良時代に建てられた木造建築物が今なお現存しています。
 火災により焼失した木造建築物も有りますが、地震や風雪に耐え、適切な維持保全が行われていれば、木造建築物は非常に長持ちすることが証明されています。
 木はコンクリートや鉄に勝る強度を持つ建築資材です。

 強くて長持ちするはずの木造建築ですが、 近年の木造建築物では、現在の耐震基準を満たしていない旧耐震基準の在来工法や古い木造建物ほど耐震性が低くなり、地震で大きな被害を受ける傾向にあります。


【図1】出典:気象庁「気象庁震度階級の解説」より(被害イメージは震度7の図を抜粋)

 建物被害で、無被害から損傷が拡大し全壊(及び倒壊)に至るまでの被害の違いについては以下の様に区分されています。

【図2】出典:気象庁ホームページ 気象庁震度階級の解説 「被害認定用パターンチャート」より引用
(被害イメージは一部抜粋)

 住家の被害の程度は、内閣府の定める「災害の被害認定基準」等に基づいて、市町村で「罹災証明書」が交付されます。

【図3】出典:内閣府「災害に係る住家の被害認定」より引用

 全壊は「損害基準」で、構造の大部分を失い住み続けることが困難で、基本的には解体または建て直しが必要な状態です。

 建物の損傷の程度に対する全壊の範囲は以下の図が参考になります。
 全壊は、損傷度で大破・倒壊の状態が含れます。

【図4】内閣府:「東海地震及び東南海・南海地震に係る被害想定手法について」(参考)建物被害における「全壊」の定義 より引用

 築年別の全壊と震度との関係は以下のグラフでまとめられています。

木造建築物の全壊率テーブル

【図5】出典:内閣府防災情報のページ 平成22年版 防災白書 木造建築物の全壊率テーブル で震度区分を強調表示しています。
全壊率の曲線は、ばらつきのあるデーターの平均的な値になります。

赤色(旧築年)・・・昭和36年(1961年)以前
緑色(中築年)・・・昭和37年(1962年)~昭和56年(1981年)以前
--昭和56年(1981年)建築基準法施行令大改正(新耐震基準)--
青色(新築年)・・・昭和57年(1982年)以降

各築年を含めて、震度6弱から全壊率が増加し、図のように震度6強と一括りには出来無いことが分かります。

東京都で作成された全壊率曲線は、築年別の違いを更に細かくまとめられています。


【図6】出典:東京都防災ホームページ
南海トラフ巨大地震等による東京の被害想定(平成25年5月14日公表) より引用


 図5,6のグラフから、1980年以前と1981年以降(新耐震基準)の間で倒壊率に差が有ることが分かります。
 その差の要因は、大地震が発生し大きな被害が生じるたびに、建物の耐震性能の基準となる「建築基準法」が改定されて安全性が向上してきましたが、新耐震基準で、それまで無かった大地震に対する基準が設けられたことです。
 しかし、1981年以降で2000年基準の建物(図6の新③)であっても、大地震の想定を越えると倒壊率が急上昇しています。


2,新耐震基準でも倒壊が発生



 熊本地震では、熊本県 益城郡益城町でわずか約28時間以内に震度7の地震が2度発生し、新耐震基準の導入以降に建てられた住宅の倒壊や大破も目立ちました。



【図10】出典:「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会 報告書

 倒壊・崩壊と大破で着目して見ると、旧耐震基準で45.7% 新耐震基準で18.4% 2000年規準で6.0%と耐震性が旧耐震基準から大幅に向上していることが分かります。
 しかし、最新の2000年規準であっても、住宅性能表示制度の「耐震等級2」の住宅に倒壊が発生しました。

 2025年4月の建築基準法改正では、熊本地震を踏まえ木造住宅の耐震性強化や、小規模建築物の確認申請手続きの見直しなどがおこなわれました。


3,基準法の変遷と耐震性能



 では、築年による耐震性の違いはどこにあるのでしょうか。

 大地震により甚大な被害が発生するごとに建築基準法が改定されて、新たに建てられる建物の耐震性が向上してきました。


【図7】過去の大地震と基準法改正の経緯

1981年の新耐震基準
 1981年6月1日に施行された建築基準法で、建物の大地震に対する規定が新たに設けられました。
震度6強から7程度の大地震でも建物の倒壊・崩壊を防ぐことを目指した基準です。

【図8】旧耐震基準と新耐震基準の違い

 大地震の震度6強から7程度は、1995年阪神・淡路大震災クラスの震度を示す表現で、計測震度6.4~6.5程が震度6強から7程度の意味になります。


【図9】計測震度と震度階

 阪神・淡路大震災での震度7 は体感によるもので、計測震度の推定は6.5 ほどと見られています。
 熊本地震本震の益城町宮前での震度7は、阪神・淡路大震災を上回る計測震度6.7 でした。

 震度7は上限のない震度であり、全壊率曲線で旧築年・中築年は計測震度7.0でほぼ100%全壊になっています。


【図11】
 住まいの耐震性は、「地盤」「基礎」「上部構造」が、そろって地震に耐える必要が有りますが、築年数が古い建物ほど、「地盤」「基礎」「上部構造」の耐震性が低くなる傾向にあります。

【図12】基準法と耐震性の傾向

 ここでは、建物の構造上のことに関しては触れませんが、建物に影響の大きな液状化現象に関して以下ご案内します。



4,大地震で起こる液状化の影響



 大地震による倒壊や火災による甚大な被害に意識が向きがちですが、内陸部で起こる液状化現象によりあらゆる社会インフラが被害を受けます。

液状化による代表的な被害と地震後の生活に及ぼす影響例

【図13】国土交通省 液状化現象について より引用

「地形区分に基づく液状化の発生傾向図」と「都道府県液状化危険度分布図」をハザードマップポータルサイト『重ねるハザードマップ』で公開されています。


【図14】京都駅周囲の液状化傾向

 液状化による戸建て住宅被害も日常生活にとても大きな影響が生じますが、液状化で建物が傾くことに関する罹災証明の発行には「地盤の亀裂」や「基礎の全壊」など一定の基準を満たす必要があり、これに該当しないと被害認定が厳しくなります。

 京都府ホームページ「京都府における地震・津波による被害想定」の、令和5年度花折断層帯地震被害想定の報告で以下の被害想定となっていますが、液状化による全壊が1550棟とされています。

【図15】出典:京都府「花折断層帯地震被害想定報告書」

 液状化現象は行政による対策も重要ですが、宅地では地盤改良や擁壁等の構造物を強くするなど、個人で行うこともできます。
 まずは、自治体が発表している地震ハザードマップや液状化マップから、ご自身のお住まいの場所や地域が、液状化現象が発生する可能性があるかを調べましょう。

 地元の京都周辺に多くの活断層が有りますが、「花折断層帯」による地震が発生すると、広範囲に震度6強の揺れが発生します。



【図16】出典:京都府第二次地震被害想定調査結果 より引用

マグニチュード7.5は、兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災委)M7.3の約2倍のエネルギーを持つ地震になります。

 京都府マルチハザード情報提供システムから、詳細な状況が確認できます。

広範囲に震度6強の予測となっています。

【図17】出典:京都府マルチハザード情報提供システム(地図の中央が京都駅です)

更に、液状化も広範囲に「液状化危険度 中(活断層)」となっています。

【図18】出典:京都府マルチハザード情報提供システム(地図の中央が京都駅です)


 又、河川・沼・田畑や山地などで盛土造成されている場合、擁壁の変位や背面土の沈下により建物の不具合が見られ、住宅の不同沈下の原因は、軟弱地盤の上に建てられた擁壁が沈下したことが大半であると言われています。
 軟弱地盤の例
 海・河川・沼・田んぼの埋め立て地 ・水路や暗渠付近の土地 ・盛土で作った土地 ・粘土や砂を多く含む地層(レキ層、洪積層、ローム層、シルト層)

 防災科学技術研究所 J-SHIS 地震ハザードステーションの、J-shis Mapで、

【図19】出典:防災科学技術研究所 J-SHIS 地震ハザードステーション

 画面上部の「微地形区分」を選択すれば、地域の地形区分を確認できます。
 右下の詳細ボタンで、微地形区分の凡例が表示されます。
 微地形区分のうち、「谷底低地、後背湿地、旧河道・旧池沼、干拓地、埋立地」は軟弱地盤の可能性があり、地震や豪雨に対して警戒が必要です。





2025年8月25日改定





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